2000年11月12日作成
2001年 1月 8日追補

伊豆小笠原調査航海(R/V なつしま with しんかい2000)


目次:
 
出航そして Oct. 30 - Nov. 1
 初潜航(前編) Nov. 2 
 初潜航(後編) Nov. 2 up: Jan. 8
 the day after(その翌日) Nov. 3 up: Jan.__

//わたくしごとの部屋へ:


出航そして Oct. 30 - Nov. 1

 帰国より1ヶ月も経たないうちに4度目の調査航海に出掛けました。
 場所は小笠原母島より西へ100kmの海形海山という海底火山:北緯26.7°東経141.0°。
 かなり明瞭なカルデラが認められる地形で、また、
 現在のカルデラ縁に当たる部分に頂部に火口らしき凹地を伴う中央火口丘があります。
 海底地形図を見るとさらにその外側に南東に向かって開いた馬蹄形状の峰があり、
 これが更に以前の活動の産物であるとするならば、洞爺湖・有珠山同様の三重式カルデラとなります。
 周辺の平坦面からの高さ(比高)は1500m以上、基部の直径が10kmを超えますから、
 陸上にあればかなり立派な火山です。

 今回は同じ研究部の潜航提案者が事情により調査に参加できなくなったための代理で、
 もちろん私にとっては初の潜水艇による調査。どきどきしますね。

 研究所の専用岸壁からの出航は30日の午後3時。
 皆さんに見送られての初めての経験でした:何しろ今までは外航ばっかりでしたので。
 ともかく実験室内の荷物をロープで縛ります。黒潮を横切る際に揺れるため。

 あけて31日。秋雨前線の下をくぐって行きますが、えらい揺れ。
 叩き付けられる波で居室の窓が抜けたり:割れたのではなくすっぽりと、
 風邪気味の為所もあってか上から戻すは下からは特急になるわで参りました。
 これはたまらないのではじめに酔い止めを飲み、喉も痛くなって風邪薬を飲み、と
 軟弱者そのもの。おかげで夕食後からはだいぶ持ち直しました。

 翌、11月 1日。
 天候はやや回復します。
 台湾付近の台風は北上しつつあるようで難は避けられそうな模様。
 私ともう一人潜航調査初体験の京大の方とブリーフィングを受けます。
 説明を受ける前に体重測定。体重に限らず、カメラなど持ち込み品も重量を概算。
 # 浮力調整のため。
 ついで心得を。
 ・前日の暴飲暴食をしない/・前夜は普段通りの睡眠を取る。/
 ・引火性の物(たばこ・ライター)持ち込み禁止,ポマード・口紅禁止…
 で、万一の際の1時間分および半日?分の呼吸具、及び、
 船内での小用携帯トイレの使用法レクチャーを受け、
 外から見えるカメラ、ライト、マニピュレーターなどの解説。

 模型に入ったことはありましたが、実際の耐圧球の空間とは非常に不思議なものです。
 上半分は周囲をぐるりと機器が取り囲み、椅子席の分の空間しかありません。
 下半分はほぼ内壁に沿った半球状の空間で、覗き窓が3つ。私ぐらいの身長ならあぐらもかけます。
 内径2mの超高張力鋼で出来たこの耐圧球内にパイロット2名、観察者1名の計3人が入ります。
 クッションが敷かれた床面に靴を脱いで座り、上昇・下降中は艇長がイスに、
 海底に着いたら艇長が観察者の隣に来て艇長補佐がイスに座るとのこと。
 で、観察用のカメラ、ビデオ等の操作法、緊急時の通信機の操作法:エアポート77のような…。
 ちょっとドキドキしてきました。

このページの
トップに戻る

初潜航(前編) Nov. 2

 さて、あけて2日。天候・海況ともに良好。朝6時半にブリッジへ上がる。
 後から来た首席研究員に様子を訊く。おそらく大丈夫であろうが決定は後ほどと。
 ともあれ、行けそうとなれば「しんかい2000」の運航チーム(2Kチームは)早朝から作業。
 7時のラジオ体操に我々も加わります。その後、各部の点検等になりますが、
 このとき、浮力調整用のショット・バラスト(鉄の小球)を充填すると「今日はやるぞ」の合図。

 さて朝食後も準備作業は続きますが、8時半には直前のブリーフィングでコース・作業を再確認。
 その後パイロットの後について乗り込みます。
 このときまだ「しんかい」は格納庫の奥の方にいて、
 2階に当たるキャットウォークのタラップから、艇長補佐、研究者、艇長の順に乗り込み。
 のっぺりした白色FRPの2K上面で靴を脱ぎヘルメットをとって:これが結構怖い、
 命綱を付けている作業の担当者に渡します。
 ハッチは径60cmほどでしょうか。赤く塗装された卵形の断面の波避け?の内側にあって、
 そこからアルミ製?の梯子を伝って降ります。
 後で気付いたのですが、この梯子、潜航では2つに折って椅子席の後ろに引っかけてあるんです。
 で、上がるときには椅子を下ろして梯子は延ばして、
 椅子の背もたれの金具のフックに引っかけてビンディングで止めてるんです。
 このビンディングは繰り返し使用されていてちょっとヨレヨレ。こんな所に年季が出ていますね。

 もちろん、艇外にもカメラはありますが、艇内からも撮影します。
 今回は一眼レフのデジタルカメラ(30万円!)を首席が持ち込んだのでそれを借用:私のはシステムエラーで玉砕。
 こういった持ち込み品や弁当、記録用のデジタルベータカムのテープなどはハッチから吊り下ろし。
 最後に艇長が降りてきて椅子に陣取ります。搭乗完了。
 艇長と補佐が点検を開始します。既に2Kは1200回以上の潜航をこなしていますから
 クリアブックに入れた点検表に赤鉛筆でマークして淡々と進みます。覗き窓から覗くと
こんな感じ

 点検が続く中、船台にのったままの「しんかい」は後部甲板へと引き出され、
 大きなクレーン:Aフレームに吊り上げられ、水面へとおろされます。
 潜水艇は潜ってしまえば静かなものですが、この着水・揚収の時だけは波に揉まれますから大揺れ。
 中にいると判りませんが、この間、待機していた作業艇からスイマーが2K上面へ乗り移り、
 つり下げている金具を外し、前方の主索を外し…という作業を行っています。
 作業終了/スイマー離脱/主索離れたとの通信を受けてベントして潜航開始。
 潜ってしまえば後はずんずん行くだけ。数十分間のヒマが転がり込んできます。

 海底が10mほどに近づくと:ソナーでも判りますし、当然母船でも計測、事前測深も行っています
 バラストを放出(通常10kg単位,細かくは5kgをめどにしているよう)してツリムを取ります。
 このときは中立よりちょい重め(離底までは行動の自由のため重くも軽くもない浮力中立を測りながらの行動)。
 ここでライトをつけます:下降中は切ってある。この日はこの段階で既に海底が見えました。

 さぁ、探索開始。
 両舷の補助推進をかけつつ海底へ。

このページのトップに戻る

初潜航(後編) Nov. 2

 さて、海底に到着:着底といいます。まさに着陸脚で海底にのっかるのです。
 このとき既に耐圧殻内は結構冷えてきています。海面で32℃くらいだったのが十数℃になっていたでしょうか。
 そんなわけで途中で潜航服:防水性を除いたスキーウェアという感じを着込みます。
 海底は砂地でいやに明瞭だなぁという印象でした。
 …正直言ってちょっとあっけない感じもしたのも確か。
 もちろん耐圧殻の外側は90気圧の世界な訳ですが、ちょっと冷えてくる他は振動もないので、
 「国際線航空機」の気分:そりゃまぁ広くはないですけどね。
 宇宙船の場合はどうなのかは経験者に訊いてみたいところです。
 まぁ、潜水艇の場合は経験豊富な艇長と補佐の2人が同乗し、
 観察の研究者はまぁ宇宙飛行士のようには訓練を受けてはいないのでそのためかも知れません。
 船外カメラは自動タイマーで1分ごと撮影にセットし、観察を始めます。
 # 学術的な成果がまだ未発表(Dec.2000時点)なので詳細画像はご容赦。
 色が黒い砂浜の砂地のような海底に波模様がついています。
 # この模様から流れの方向や強さなどが復元できます(堆積学のプロが見れば)。
 この日の目的は馬蹄形カルデラの崩壊跡にも見える湾曲した峰がどんな岩石で出来ているかの確認で、
 そのためにはともかくも堆積物に覆われていない崖:露頭の発見が第一なのですが、
 当然、窪地というのは堆積物に埋められているものなので、ともかく、峰の麓へと向かいます。

 しばし単調な海底が続きます。少し浅くなると砂地から砂利に変化します。
 所々に黒い石が転がっていて、中には生物が付着しているものもあります。
 やがて海底が波打ってきます。これは波模様の親玉のようなもの。
 # 私は本職の地質学者ではありませんのでなかなか難しい…。
 転がっている石が取りやすく(軽く)なります。中には色の薄いものも混じって。
 かなり大きいもの含めいくつか採取したのに軽石で脆く、浮上時に四分五裂して海の藻屑に…。
 驚くべきことに着底以来ずっと1尾の魚が艇の周囲を追尾していましたが、
 ことここに至ってとうとう威嚇を始めます:あまりにびっくりしたので写真は無し。

 艇内の食事はサンドイッチと珈琲:以前はおにぎりだったとか。
 まぁ、珈琲の方は降下中に1杯目を戴いたりもします。
 食べれば催すこともあり、小さい方は携帯型簡易なんたらで処理可能。
 # 大きい方はどうにもなりませんから、お腹をこわすと乗れません。
 とはいえ、狭い艇内、立つことの出来るのは椅子を下ろした後の操縦席しかありません。
 ということで順繰りに場所を交代しながら済ませます。

 さて、そうこうしているうちに麓にとりつきます。
 ずいぶん生物が多く、定着性のもの、魚など。
 崖は途中から比較的急になり(30°くらいの傾斜)、
 いかにも火山噴出物という角礫岩が累々と積み重なります。
 頂上とおぼしきあたりは水が濁っていて視界が効きません。
 火山という奴は温泉が付き物ですが、こういった濁りは海底温泉=熱水噴出口から来るものが多く、
 珍しい生物も多いため、最近は熱水地帯の潜航調査が増えています。
 で、この海底火山は30℃程度の温湧水しか見つかっていないため(それでも普通は4,5℃ですから充分高い)、
 これは!と思って探しますが、時間切れで浮上と相成ります。

このページの
トップに戻る

the day after(その翌日) Nov. 3


このページの
トップに戻る

わたくしごとの部屋


支援母船「なつしま」
 海洋科学技術センター(JAMSTEC)所属の支援母船(しばしばR/V: research vesselと略記される)。
 しんかい2000の母船。
2000m級有人潜水艇「しんかい2000」
 日本初の2,000m級深海有人潜水艇。しばしば2Kと通称される。

このページの ご感想 をお寄せください.

熊谷